「こういう所ではササッと出しちゃえばいいのよ」と風俗嬢は言った。
僕は彼女との最中になんどか我慢をした。せっかく大金を払うのだから10分足らずでオーガニズムを迎えるのは勿体無いと思ったからだ。
しかしその我慢が仇となり、オーガニズムを迎えることなく狭い空間にタイマーの機械音が鳴り響いた。
それと同時に風俗嬢は手を離し「はい、終わり」と言った。彼女は少し苛立っているようだった。僕が我慢したからだろう。
「こういう所ではササッと出しちゃえばいいのよ。君みたいなんは遊び方というものを分かってない」彼女は関西弁のイントネーションで一気に言った。
僕がそれを聞いてなんと返したのかは忘れた。おそらく何も言ってないだろう。ただ、軽いショックを受けたのは覚えている。女性に怒られたからだろうか。それとも風俗嬢に怒られたからだろうか。
上司(男性)に怒られるのとはまた違う種類の足跡を僕の心に残していた。
彼女はプレイを始める前に「SとMどっちがいい?」と訊いてきた。僕は迷わず「S」と答えた。だから怒られたのかもしれない。Mと答えていればどんな未来が広がっていたのだろうか。好奇心が尽きることはない。
僕は星の数ほど風俗に通ったのだが、記憶に残っているのは彼女だけだ。叱ってくれたのも彼女だけだった。僕があの時「Mでお願いします」と答えていれば叱ってくれなかったかもしれない。
そうなれば彼女との一夜は記憶の彼方へと消え去っていっただろう。そして記事にすることもなかった。
もしかすると、叱ることで相手の記憶に残ることが出来るのかもしれない。
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