僕は迷っていた。何に迷ってたかって?それがはっきりと分からないんだ。
ポケモンのカードを買うということははっきりしている。しかし、どのパックをどのくらい買うかがはっきりとしない。まるで懐中電灯を持たずに洞窟に入ってしまったようだ。
「ポケカ投資が流行っているようだね」柿本が言った。
「あぁ、そうだよ。ただ希少なカードだけにね」
「希少か。どの時代でも希少には高値がついてしまうんだね」
「ダイヤモンドの話しかい?」僕が訊いた。
「それ以外にもある。大昔のフランスの話しをしよう。フランスでは胡椒がとても希少だったんだ。まぁ、つまりとても高価だった。貴族達はその価値の高い胡椒に魅力を感じ、ありとあらゆるものに胡椒をかけたんだ」
「胡椒に魅力を感じるかな~。高値に踊らされたのかな」僕はすぐにキャビアが頭に浮かんだ。あれは値段が高いってだけでもてはやされている。美味しくない。
「当時のフランスにとって胡椒の魅力は希少なだけじゃなかった。君はジビエ料理を食べたことがあるかい?」
「鴨ならあるよ。とても美味しかった」
「そうだろう。それは職人さんが、鴨肉に血が回らないように適切な処理をしてくれたから美味しく食べれたんだ」
「血抜きってやつかい?」
「そうだ。その処理をしなかったら鴨肉は不味くなる。それで当時のフランスの話しなんだけど、血抜きという技術がなかったんだ。だから鴨肉は血生臭かった。そこでどうしたと思う?」
「胡椒をかけたってわけか」
「いえす。血の臭みを消すために胡椒をたくさんかけたんだ。貴族にとって胡椒は希少であり、とても役に立つ調味料だったんだ。しかし、その後胡椒は手軽に輸入できるようになり価値は下がっていったんだ」
「ポケモンカードの価値もいずれ下がると言いたいのかい?」
「いや、それは分からない。ただ希少な物の価値は上がり、世の中にたくさん出回る物の価値は下がるということは知っておいてほしい」
「わからない・・」
「何がわからないんだい?」
「僕がどうしたらいいかだよ。希少なカードを手に入れるために何万円も使っていいのかが分からないんだ・・」
「はははは、予算はいくらだい?」
「予算?」
「1ヶ月でどのくらいお金を使えるんだ?」
「2万円・・」
「そうか、ならば半分の1万円にしなさい」
「それじゃあ、レアなカードは引けないよ」
「じゃあ、2万円使ったら引きやすくなるのかい?」
「1万円よりはね」
「甘いな。ギャンブルで負ける奴はみんなそう考えるんだ。しかしギャンブルで勝つ奴はこう考える」
そう言って柿本は僕の目を静かに見つめた。
「いかにして投資額を減らすかだ」
「カードの買う量を減らすのかい?」
「あぁ、そうだ。ダメな奴は金を使って回収することばかり考える。使えば使うほど回収しなきゃいけない分が増えていくのにだ」
僕は言葉が思い浮かばず黙った。
「念頭に置いておくのは投資額を少なくして回収しやすくすることだ。希少なカードが出るか出ないかは運に任せろ。リラックスリラックス!」そう言って柿本は肩を上下させた。
それを見て僕も肩を控えめに動かした。
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