高校にバスで通学するとき、滝本はいつも憂鬱になっていた。しかし、これといった理由はない。授業もそこまで辛くないし、友達がいないわけでもない。なのになぜか、バスに乗ると憂鬱な気分になっていた。1年生の頃からそうだろうか。滝本は現在3年生だ。
滝本は中学生の頃から、自宅を出る際は必ずイヤホンを装着して音楽を聴いた。聴くのは学生らしく、ロックバンドが中心で、中でもuverworldはライブに足を運ぶほどのファンだった。もちろんバス内でも窓の外を眺めながら聴いた。そして知らないうちに憂鬱になっていた。
そしてそして、気付いたら選曲もバラードになっており、憂鬱はさらに加速した。バラードを聴くから憂鬱になるのか、憂鬱だからバラードを聴くのか、そこははっきりしない。ただ、滝本の心はバラードを求めていた。
決してうつ病などといった、精神的病ではないことを滝本は確信していた。軽音楽部に入部してバンドを組み、ベースを担当していたのだが、やる気がみなぎり毎日3時間は練習していた。このやる気は3年間衰えることはなかった。それに2年間ほど回転寿司でアルバイトをしていた。こちらこちらで、やる気がみなぎることはなかった。
バス内で憂鬱を感じは始めたのは高校3年生になってからだろうか。滝本は高校2年生の冬に失恋をしていた。半年ほど付き合った彼女にフラれてしまったのだ。滝本にとって初めての彼女だった。真剣に愛した初めての女性といっていい。
そんな彼女にフラれて滝本はバス内で憂鬱を引き起こしたのだろうか。記憶が定かではないが、彼女と付き合う以前から滝本は憂鬱を引き起こしていた。
おそらくだが、バスという身動きの取れない空間には、心の拠り所がなかったのだ。変わらない景色を眺めながら、滝本の心は自然と憂鬱を求めてさまよったのかもしれない。
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